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小倉広メルマガvol.313 上司の立場になってごらん。景色がまるで違って見えるはず



vol.313 『上司の立場になってごらん。景色がまるで違って見えるはず』 
出典:任せてもらう技術



◎部下から批判を浴びた新米上司だったころ

僕が初めて上司になったのは、コンサルティング部に異動してから1年後、
30歳になったときだった。
僕は6名のメンバーを部下に持つ課長になった。
そして初めて、
部下から批判される上司の立場というもののキツさを痛感することになった。

課長になった当初、僕はいい上司ぶって、
「皆の意見やアイデアを大事にしたいから、
どんどん自由にやっていいよ」と豪語した。

だが、実際に部下たちが自由に動き始めると、
「そんなことをしたら失敗するぞ」「こうしたほうがうまくいくのに」
という点ばかりが自につくようになった。
そして僕は我慢しきれず、皆のやるととに口出しをするようになった。
だが、そんなことをすれば、当然部下から文句が出る。
「最初にいったことと違うじゃないですか」と
部下たちから責められた僕は、うろたえてしまった。
課長という肩書きがあるとはいえ、1年目の新米上司だ。

上司としての自信がなかった僕は、
「ちょっと口を出し過ぎたかもしれない」と反省し、
「やっぱり自由にやっていいよ」と前言を撤回した。
ところが、横で部下の仕事を見ていると、どうしても口を出してしまう。
振り子のように右へ左へとフラフラ揺れる僕の態度を見て、
部下はますます批判を強めた。

「あの人、いっていることとやっていることが全然違うよね」
「小倉さんって、ブレすぎだよね。振り回されるこっちの身にもなってよ」
そんな声が耳に入るようになると、僕はますます自信を失い、落ち込んだ。
そしてとうとう、うつ病になってしまったのだ。

結局、僕は自らの上司に申し出て、課長の役職から降りることになった。

◎ 「△」「△」「△」から1 つを選ぶのが上司の仕事

今から思えば、部下のいうことはもっともだった。
僕だって自分が部下の立場なら、同じように僕を批判しただろう。
ただ、部下の人たちにわかってほしいのは、
上司がどんな意思決定をしても、
部下はいくらでも文句がいえてしまうということだ。

意思決定は上司の重要な仕事だ。
しかしそれは、いくつかある選択股のなかから正解の選択肢を選ぶ、
というような簡単な仕事ではない。
たとえば、「○」「△」「×」という選択肢が与えられた場合、
「○」を選べばよいことは、小学生にだってわかる。

だが、上司に任される意思決定はそれとは違い、
「△」「△」「△」の中から1つを選ぶという作業なのだ。

たとえば、「ある商品の売上総額をアップするにはどうするか」
という意思決定を迫られたとする。
選択肢の1つは、商品の価格を上げることだ。
それなら、販売個数は同じでも、売上の総額を増やすことはできる。
だが、現場の営業からは猛反対される。
価格が上がったら、そのぶん販売個数は少なくなる可能性が高いからだ。

では、商品の価格を下げたらどうか。だが、価格を下げたら下げたで、
今度はそのぶん、販売個数を増やさなくてはいけない。

価格を見直さない、という選択肢もある。
しかしそれでは、現状維持が続くだけだ。

3つの選択肢は、どれも「△」だ。どれを取っても、
「とれが一番いい」という訳ではないし、
「このなかから一番マシなものを選ぶ」ということでさえない。

進むも地獄、戻るも地獄、とどまるのも地獄。
どれを選んでも地獄とわかっていながら、
それでもどれか1つを選ばなくてはいけない。
これが上司に課せられる意思決定だ。

そして、どれを選んでも「△」だから、
部下たちは「なぜ○じゃないのか」と文句をいえる。
上司はどんな決定をしても、部下から責められる運命にある訳だ。

上司が日々、そんなギリギリの意思決定を迫られているなんて、
自分が部下だったとろには想像もしなかった。
だから僕は簡単に、上司を批判しまくっていたのだ。
「部下に仕事を任せるか、任せないか」の意思決定だって同じことだ。

部下の吉木君(仮名)に任せれば、彼のモチベーションは上がるし、
経験値が増えて成長できるだろう。
だが、吉木君の現在の能力では、任せて失敗するリスクもある。
上司にとっては、どちらの選択も「△」だ。

部下は簡単に「任せてほしい」というけれど、
上司にしてみれば、厳しい選択を突きつけられていることになる。
僕は上司の立場になってみて、見える景色ががらりと変わった。
それは部下のころには想像もしなかったような別世界だった。

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