作家、講演家、心理カウンセラー

小倉広オフィシャルWebサイト

小倉広事務所 HOME

7月11日配信 小倉広メルマガvol.276「部下を脇役にするな」



vol.276「部下を脇役にするな」
出典:任せる技術

-宿題をやりなさい、と言ってはならない

上司は部下にある仕事を任せ、ガマンしながらそれを見守っていた。
しかし「今週中に必ず仕上げます」と言っていた仕事が一考にあがってくる気配がない。
1日過ぎ、2日が過ぎ……。しかし「遅れます」という連絡さえも送られてこない。
このままではクライアントに迷惑がかかる。そう思い、上司はじれったい思いを込めて
こんなメールを部下に送ることにした。
「あの件どうなっている? 先週末までに仕上げるという約束だったんじゃないの?
このままではクライアントに迷惑がかかるぞ。ちゃんと報告をしなくちゃダメじゃないか」

そして送った瞬間に後悔した。あーあ。またやっちまったよ、と。
上司が送ったメールの内容は一つも間違ったことを言っていない。
しかし、これではダメなのだ。これでは、部下が主役になっていない。
あくまでも主役は上司。部下はそれを手伝う手足のような脇役になってしまっているのだ。

上司は「催促する」という行為をした瞬間に、主役の座を部下から奪ってしまった。
この瞬間に、部下にとってこの案件は「上司から催促されてやる仕事」
すなわち「やらされ仕事」に変わってしまったということになる。

「ヒロシ! 遊んでばっかりいないで宿題やりなさい! 」。
学生時代に僕は母親からよくこう叱られた。すると決まって僕はこう言い返していた。
「今やろうと思っていたのに! お母さんに言われたからやる気がなくなったよ! 」
人は自分で決意して、やろうと思ったことはやり遂げられる。
しかし、人から決意を促され指示命令された仕事をやり遂げることは難しい。
やる気と主体性がグッと下がってしまうからだ。
上司が部下に催促をしただけでそれと同じことが起きてしまう。
催促が部下の主体性を奪ってしまうのだ。

リーダーたる僕たちはここまで考えて部下とコミュニケーションを取らなければならない。
そうでなくてはコミットメントを引き出すことなどはできないのだ。

-会議や集会で主役になってはいけない

「和田さんは素晴らしい仕事を成し遂げました。
お客様からこのような言葉をいただきました。そしてこんなふうに提案を実行に移したのです……」。
月に一度の全体会。
全社員が集まり月間の振り返りと次月の方針共有をする。
と同時に月間表彰や模範となるエピソード共有も行う。その全体会でのできごとだ。

表彰される和田さんの取り組みについて上司の丸山役員が情感たっぷりにエピソードを語っていた。
隣で神妙な表情で和田さんが立っている。晴れがましい場面だ。

しかし、社長はこう思っていた。「ありゃりゃ。丸山役員が主役になっているよ。
せっかくのお客様との素晴らしいエピソード。和田さん本人に発表させてあげればいいのに」と。
上司が部下から主役の座を奪ってはならない。
会議や集会の場面では、なるべく晴れがましい役柄を部下に譲るのだ。
例えば成果発表、方針発表、その晴れがましい場面を上司が独り占めするのではなく、
部下にやらせてあげるのだ。
部下に主役を譲るのだ。

前月の振り返り、次月の方針、表彰、エピソード共有。
あらゆるプログラムにおいて社長は一言も話さない。会議のオブザーブ席で黙って皆を見守るだけだ。
社長に代わって晴れの舞台で話すのは、3人の若手役員だ。
彼らが現場を動かしているのだから晴れの舞台も彼らが主役を張っている。
それは社長にとって淋しいことではあるが、とても嬉しいことでもある。
彼らを見て「頼もしい」と思うことが多いからだ。

もっと嬉しいことがある。
部長兼役員に代わってその下の課長候補クラスが大切な発表をしてくれるようになったのだ。
もちろん、周到な準備と入念なリハーサルを行った上でのこと。
しっかりと意思を込め、コミットメン卜している様が手に取るように伝わってくる。
「これで彼らの成長がますます加速するな……。」社長は思った。

彼らとは、新たに大事な仕事を任された課長候補クラスと、
彼らに大事な仕事を任せる勇気を持った役員たちの双方だ。
社長は未来をとても楽しみにしている。

-任せる側は黒子になって陰で手伝う

ここまでの内容をご覧になった読者の方はこんな疑問を持たれたのではなかろうか。
「ガマンして任せることの大切さはよくわかりました。
しかし、このままでは任せっきりの放任になってしまいませんか?
部下に任せても彼らでは気づけないこともあります。
彼らだけではのんびり安心してしまう大切な抜け漏れがたくさんあるのです。
ガマンしていては取り返しのつかない致命傷になるかもしれません。
それについてはどうしているのですか?」というものだ。

実際、講演や出版の後、多くの方から同じような質問が寄せられている。
そんな時、僕はいつもこう答えている。

「放ったらかしにはしませんよ。必ず部下に注意をします。『この件が抜けていないか?』
『今のままだとこんな問題が起きる可能性があるけど大丈夫?』
ただし、言い方には細心の注意を払っています。先に述べたように僕が主役にならないように。
そして、できるだけ決定を彼らに委ねるのです。つまり指示命令は絶対にしない。
『独り言をつぶやく』のです。それを採用するかしないかは部下に委ねる。そんなふうにしていますよ」と。

舞台の袖で子供のピアノの発表会を見守る母の心境でガマンして待つ。
しかし、子供に代わってピアノを弾いてはおしまいだ。
ハラハラしながら待つ。演奏前と後にちょっとした助言を与える。
それが部下に仕事を任せる僕たちの仕事なのではなかろうか。

主役を奪わない。けれど放ったらかしにはしない。
このバランスが求められるのだと僕は思う。

Top