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1月11日配信 一偶を照らす vol.5『良くないことを「先払い」する』



daikichi
「3,2、1、0!! ハッピーニューイヤー!!」

司会兼ボーカリストの男性が叫んだ。と同時にデキシーランドのジャズバンド
が一斉にルイ・アームストロングの演奏で有名な「聖者の行進」を奏で始めた。

「わぁー!ハッピーニューイヤー!イェーイ!」
口々に叫びながら観客がハグをしたり、握手をしたり、恋人たちがキス
したりしている。東京タワーには「2013」という文字が浮かび、タワー全体
がキラキラと光の点滅を繰り返していた。

人工雪が舞い、人々が手に持っていた白い風船を一斉に空に向けて飛ばした。
私は、1月1日0時になった瞬間に、幸福感でいっぱいに満たされた野外音楽会
場を抜け出して、近所の小さな神社へ足早に向かった。

「ドドン、ド、ドン!」
「ピィー、ピィー、ピィーヒャララ」

笛と太鼓に合わせておかめとひょっとこが舞い踊る。鉢巻きを巻いた小さな子
どもが首だけを前後に動かし、昔ながらの日本の踊りを踊っている。ドラム缶
には赤々と焚き火がたかれ、人々は長い行列を作っていた。

「甘酒だよ!」
「豚汁と樽酒はいかが!」

白い月がくっきりと見える夜空を眺めながら、私は初詣の順番を待った。15分
くらい並んだだろうか。その後、私は2013年初めてのお参りをし、神様に感謝
の言葉を伝えた。そして、私自身が怠けたり、道を間違えたときに気づかせて
いただきたい、とだけお願いを伝えた。

『天は自ら助くる者を助く』
(Heaven helps those who help themselves.)

洋の東西を問わず、神は努力する者だけを助ける。決して神様に自らの成功や
金持ちになることを願ってはいけない。私は私の信じる方法で神に祈った。

ふと、おみくじが目にとまった。「ひいてみるか……」私は100円玉をボック
スに入れ、1枚を選び取った。

「大吉」

おみくじにはそう書かれていた。「大吉、か……」。私は一瞬ほっとした後、
こう思い直し、自分を戒めた。

「大吉で喜ぶ必要も、大凶で悲しむ必要もない」

良いことと悪いことは必ずセットでやってくる。禍福はあざなえる縄のごとし。
サイコロを数多く転がせば、必ずや、1から6の目は均等の確率で出現する。
それと同じように、良いことと悪いことは交互にやってくる。

おみくじを引いて「大吉」が出て、仮に本当に良きことが起きたとしても、
ずっとそれが続くわけではない。順番に「大凶」がやってきて、悪いことが
起きるだけ。たまたま「大吉」の順番や「大凶」の順番が来ただけのこと。
単なるタイミングの問題でしかないのだ。

そして、良きことは別の角度から見れば悪いことになる。同様に悪いことも
別の角度から見れば良いことになる。

金持ちになれば出費が増え、財産を守る心配が増え、友人を減らしてしまう
という。やっかみや足の引っ張り合いもあるらしい。どうやら良いことだら
けではないようだ。

重い病にかかることは悪いことのようにしか思えない。しかし、病をきっか
けに生活習慣を改めれば、それは健康への良ききっかけとなるだろう。また
病を機にに自分の生き方、考え方を見つめ直し、それ以後の人生を心豊かに
暮らすことができるようになるかもしれない。

良いことと悪いことは交互にやってくる。
良きことは裏側から見れば悪いことで、
悪いことは裏側から見れば良いことだ。
そう言えるのかもしれない。

「あぁ。去年はいい年だったなぁ。今年もいいことがたくさんありそうだ」
そう、自らを振り返った後に、気を引き締めた。この後、必ず悪いことが起
きるだろうな、と。そして、それは避けるべきことでも忌み嫌うことでもな
い。ごく当たり前のことだ。そう思った。

そして、さらに一歩進めてこう思った。
「ならば。悪いことを『後払い』で受け取るのではなく、『先払い』してし
まえばいいのではないか?」と。

仮にお金が手に入ったのであれば、それを『後払い』ではなく『先払い』で
失えば良い。例えば寄付をする。家族にプレゼントを贈る。同僚や仲間のた
めにお金を使う。意図せぬことでお金を失う前に、自らの意思で『先払い』
してしまえばいいのではないか。

例えば名声が手に入ったのであれば、それを『後払い』ではなく『先払い』で
失う体験をすればいい。名声とは関係のない、市井の一員として、下座行
(自分を人よりも一段と低い位置に身を置くこと:森信三著『修身教授録』より)
を行うのだ。それは、例えば自らの実力よりも一段低い地位に甘んじながらも
文句を言わずに一所懸命にその地位に仕えることも一つだろう。また、掃除を
行い、社会を清める行いに奉仕するのも下座行となるだろう。そのようにして
名声を「先払い」で自ら失ってしまえばいいのだ。

そう考えたときに、さらに腑に落ちた。そうか。だったら、常に「先払い」
で払い続けておけばいいことじゃないか。つまり、常に自ら「お金を失う」
ことや「名声を失う」ことを先払いし続ける。具体的には、お金が手に入る
前から寄付や仲間のためにお金を使って「先払い」をする。

たとえば「名声」が手に入る前に、あえて「先払い」する。すなわち、下座
行を先に行う。掃除をする。低い地位で一所懸命働く。「先払い」を次々と
先行させるのだ。

すると、望まなくても「お金」や「名声」が手に入る。「先払い」に応じて
良いことと悪いこと、すなわち「陰」と「陽」がみごとにバランスされるの
ではないか。そんな風に考えを巡らせた。

気がつけば、初詣の行列はさらに長くなり先ほどの倍くらいの長さになって
いる。私は早速「先払い」をしてみよう、と思いたった。そして、ドラム缶
で焚き火を燃やしてくれている係の人に御礼の言葉を告げてみた。

「おめでとうございます。とても暖かくて助かりました。ありがとうござい
ました」。突然声をかけられた神社の方は驚いたような表情をした後で、
にっこりと微笑んでくれた。

道路で行列をさばいていた警備のスタッフさんに声をかけて、感謝の言葉を
伝えてみた。警備の方も同じくにっこりとした笑顔で答えてくれた。
「気をつけてお帰り下さいね」

そうか、そうか。陰と陽のバランスを「先払い」する。それは善因善果、悪
因悪果の法則であり、鏡の法則であり、すべてに通じることなのだな。また
一つ考え方がつながり、私は元旦早々からとてもスッキリとした気持ちに
なった。

元旦の日に、良きことを望み、神様に良きことを願うのではなく。
元旦の日に、下座行を決意する。失うことを決意する。これこそ、幸せになる
道ではないか。そんな発想を見つけた満足感で一人にやにやと笑いながら、息
が白く凍る寒空の下、私は家路に着いた。月が先ほどよりもさらにくっきりと
白く輝いていた。

株式会社小倉広事務所
代表取締役 コンサルタント 小倉 広

【 編集後記 】

新年あけましておめでとうございます。「人と組織の悩みコラム」の時代から
継続してご愛読の皆様、お久しぶりです。そして本メルマガから初めてお読み
いただく皆様、はじめまして。どうぞよろしくお願い致します。

今後、本メルマガ(コラム)は週3日配信を予定しております。
□金曜日:新規書き下ろしのコラム
□月曜日:バックナンバーから傑作選
□水曜日:書籍から転載

皆様、楽しみにしていて下さい。

ちなみに、私の年始の三が日は数年ぶりの寝正月。「この三日間は仕事しない!」と
決め、朝からテレビを見たり、映画のDVDを見たり、昼寝をして過ごしました。
気がつけばレンタルビデオの会員権は6年前に失効したまま。約6年ぶりにDVD
を借り、お家で見ました。

テレビ番組を見るのも2年ぶりくらい。日頃、まったく見ない生活を二年ほど過
ごしていた僕にとって、テレビを昼間に見る体験は新鮮でした。そして4日から
仕事をスタート。お陰様で忙しくさせていただいています。皆さんのお正月はい
かがでしたか?
本年も「一隅を照らす」メルマガをよろしくおねがいいたします。

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