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3月12日配信 一偶を照らす vol.27 『ヒポクラテスの誓い』



vol.27「ヒポクラテスの誓い」


「小倉さんのご著書『任せる技術』を拝読しました。ぜひインタビューにご協
 力下さい」

僕は申し出を快諾し、編集者のインタビューに答えた。テーマは「任せる」こ
と。しかし、少しだけ、普通とは違うところがあった。それは、掲載される雑
誌がいわゆるビジネス誌ではなく、医師向けの専門誌である、ということだっ
た。

インタビューの趣旨を一言で言うとこのようになる。

「リーダーの医師が、どのようにすれば、若手の医師に任せられるようになる
 でしょうか?」

そして、取材の質問が10個程度あらかじめ電子メールで送られてきた。その中
にひときわ目をひく、気になる質問があった。それは以下のようなものである。

●医師は多忙かつ激務であり長時間勤務を迫られる状況にある。その中で任せ
 られる立場の部下は「仕事を押しつけられた」と思い、拒絶するのではない
 か。どうすれば拒絶されないか?

僕は、この質問を読んでショックを受けた。もちろん、100人中100人が上記の
ような状況であるとは限らない。しかし、専門誌の編集者の言葉だ。大きく的
外れなものでもないだろう。

医師というプロフェッショナルの代表とも言える崇高な職業の人間でさえも、
このような状況になってしまうのか……。僕は残念な気持ちを感じると共に、
医師に対して奇妙な親近感を覚えた。医師も人間だ。僕たちと変わらない。
そう思ったのだ。


そして、インタビュー当日。僕は上記の質問に答えた。

上司が部下に任せようとした時に、部下がそれを拒絶する。「仕事を押しつけ
られた」と誤解される、ということは企業組織でもよくあることだ。医師に限
った話ではない。では、どうすればそう思われずに任せることができるのか?

それは、テクニック論ではない。それは上司と部下の信頼関係の蓄積が決める
のだ。つまり、伝える方法や話し方などに策を弄してもゴマカシは効かない。

上司と部下が初めて出会った時から現在までに至る数千回、数万回のコミュニ
ケーションのその度に、部下は上司を評価する。この人は自分のことを親身に
なって考えてくれているだろうか。この人は尊敬に足る人物であるだろうか、
と。そして、その蓄積をもとに、部下は上司の言葉の真意を推し量る。

つまり、過去から現在までの上司と部下の信頼関係ができていれば、部下は上
司からの「任せる」という言葉を信じる。上司は自分にチャンスをくれたのだ、
と考え、拒絶せずに受け容れる。


しかし、その逆ならば受け容れない。この上司はいつも身勝手で部下の成長な
どは考えていない。どうせ今回も面倒だからオレに押しつけているのだろう。
そう考えてしまうのだ。

つまり、上司による「任せる」が受け容れられるか否かは、「任せる」以前に
決まっている。過去からの蓄積が大きく影響するのだ、と伝えた。編集者さん
は、なるほど、と深くうなずき、ノートにペンを走らせていた。

そして、次の質問へ移ろうとした。しかし、僕はまだ話し足りない気持ちでい
っぱいだった。上司と部下の信頼関係だけでは足りない。もっと大切なことが
あるはずだ。

僕は編集者さんに「ちょっと、いいですか?」と断りを入れ、続きを話すこと
にした。

「一般的には、先に話した通り。上司と部下の信頼関係があれば、部下は上司
 の『任せる』を拒絶しないはずです。しかし……」

僕が言葉を止めて少し考えると、編集者さんも前のめりになり催促をした。し
かし……、その先は何ですか?僕はしばらく考えた後にこう続けた。

「しかし、それでは淋しいじゃあないですか」

「上司を信頼する、しないは確かに重要です。しかし、読者の方は医師でしょ
 う?人の生命を預かる崇高な職業。プロフェッショナル中のプロフェッショ
 ナルじゃあないですか。ならば、上司なんか関係ない。崇高なる職業に対す
 る誓いを守ればいい。それだけのことですよ」


すると、編集者さんは不思議そうな顔で言った。誓いって何の誓いですか?

「『ヒポクラテスの誓い』。神への宣誓ですよ」。僕は続けた。

「ヒポクラテスの誓い」とは医師の倫理、任務について書かれたギリシャの神々
に対する宣誓文である。その内容は、次のようなものだ。

● 医師は自身の能力と判断に従って患者を利する治療法を選択し、害と知る
  治療法を選択しない

● 医師は自由人と奴隷に対して差別せず医術を行う

● 医師は医に関するか否かに関わらず患者の秘密を遵守する

● 医師は著作や講義などのあらゆる方法で医術の知識を無報酬で弟子や子に
  分かち与える

……

僕は続けた。

「つまり、医師は、医師であるための誓いに誠実になればいい。上司と部下の
 信頼関係も大切ですが、その前に、医師という職業を選んだ際の誓いを思い
 出せばいいだけのことです」

「そのために上司がすべきことは、部下に仕事を受け容れてもらおうと、下手
 に甘言を弄することではなく、『医師という崇高でプロフェッショナルな仕
 事の意義』を語ることです」

「損得勘定で医師はできない。つまりは医師という職業の存在価値。ミッショ
 ン。職業に対する理念を語り共有すること。それが一番の方法ではないでし
 ょうか」

僕は青臭い話を語り続けた。


プロフェッショナルの語源は"profess"すなわち「宣誓」という言葉である。
プロフェッショナルはまさに言葉の通りに、職業倫理や使命に対する宣誓を守
ること。損得ではなく使命を思い起こすことこそが最大にして最良のモチベー
ションになるのではないかと思うのだ。

そして、これは「医師」に限ったことではない、と思う。あらゆる職業の先に
は必ず顧客がある。そして、顧客は必ず何らかの問題を抱え、困っている。そ
の顔を思い浮かべるのだ。そして「何とかしてあげたい」という気持ちを思い
出す。

それこそが損得感情を抜きにした上質な仕事を生むのだと思う。僕たちリーダ
ーの仕事はそれを語り続けること。それを思い起こさせることなのだと思った。

被災者のために日夜労を惜しまずに働くたくさんの方々。

彼らは決して損得勘定で仕事をしていない。彼らはプロフェッショナルとして
自らの職業に誇りを持ち、顧客へ対する使命を忠実に果たしているだけなのだ。
そこに、僕たちの教科書がある。その思いを今の仕事に投影させることはでき
るはずだ。そんなことを考えた。

【 編集後記 】

お陰様で、大盛況の内に終えることができた 小倉広「次世代リーダー
塾」in 東京。

第1回 東洋哲学の偉人に学ぶリーダーに求められる人間力と生き方
第2回 信頼蓄積理論に基づくリーダーシップ概論

共に、お客様からもったいないほどの高い評価をいただきました。しかし
日程の都合上、どうしても参加できなかった。という方からお問合せをい
くつかいただきました。そんな方に朗報です。来週、3月19日(火)に、
東京千代田区にて、同一内容を3時間の拡大版で実施します。

こちらは提携先のあどはーつ社主催です。下記URLから入り、「小倉講師
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ぜひ、お聞き逃しなくお申し込み下さい。なお、今週末はいよいよ関西で
の「次世代リーダー塾」が始まります。こちらは、あどはーつ社ではなく
弊社主催で行いますのでお間違いなく。まだ残席があります。
⇒ https://i-magazine.jp/bm/p/aa/fw.php?i=ogurahiroshi&c=14&n=7

では、次回もお楽しみに!

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