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8月11日配信 小倉広メルマガ vol.202 『 自分の信念だけを見て、一万回でも言い続けよ』



vol.202「 自分の信念だけを見て、一万回でも言い続けよ 」
出典:折れない自分のつくり方

– すぐそこにあって、たどり着けない答え –

「強制」しない。「迎合」もしない。その「真ん中」に求める正解がある。
だが当時の私にはそれがどういう状態を指すのかがわからなかった。
相手軸に陥らないためには、相手を変えようとしてはいけない。
強制してはいけない。それはすなわち、部下の主義・主張を大切にすることである。
一方で迎合しないというのは、その主義・主張を退けることであり、この2つは相矛盾する。
当時の私はそう考えていた。理屈でわかっても、現実として想像ができなかったのである。

そんなある日、私は、組織の大変革を成し遂げたことで知られる、ある経営者の
お話を聞く機会に恵まれた。長野県長野市にある中央タクシー、宇都宮恒久会長
その人である。同社は宇都宮会長が28歳の若さで創業した長野市で最後発のタクシー
会社だった。だが現在は、売り上げ1位を独走。電話による呼び出し依頼が、驚く
ことに売り上げ80%を占め、ドライバーが駅で客待ちする暇がないほどだという。
1台当たりの月間売り上げは、他社平均の約2倍。
「タクシーを使うなら中央タクシー 」と指名を受ける、市民から愛される
タクシー会社なのだ。どうすればそのような会社がつくれるのだろう。

私は純粋にコンサルタントとして興味を持ち、宇都宮会長の講演会に申し込みを
した。まさかそこで、私が探し求めていた答え、「強制でも迎合でもない第三の道」
の具体的な例が見つかるとは、まったくもって、思いもよらないことだったのである。

- 一万回でも言い続ける -

中央タクシーが誕生した37年前、当時のタクシー会社はサービス業とは思えぬほどの
荒っぽい会社が目立っていた。宇都宮会長はドライバー募集に応募してくる人
たちのレベルの低さに驚いたという。

そんな状況の中にあっても宇都宮会長には並々ならぬ強い信念があった。お客様に
感動を提供するタクシー会社になりたい。そう思い、サービスの向上と従業員教育に
取り組んでいたのである。

だが、荒くれ者のドライバーたちは、それをなかなか理解してくれない。
できない言い訳を並べては、接客やサービスを拒否するのだ。

そんなある日、宇都宮会長はいいアイディアを思いついた。

「我が社が『お客様を大切にしている』ことを世の中に宣言してしまおう。
そうすればドライバーたちも丁寧な接客を心がけるようになるのではないか」

早速タクシーの後部座席、頭の後ろ側、リアウインドーから見えるように宣伝板を
つくり、全タクシーに設置した。そこにはこのように書かれていた。

「私はお客様を大切にします」

気の荒いドライバーたちは一斉に反発した。

「こんなもの、恥ずかしくてつけられるか!」

文句を言ってくるのはまだいいほうだ。ほとんどのドライバーは無断で勝手に
取り外していた。宣伝板は、底面をマジックテープで留めてあるだけだったからだ。
皆、車庫を出発するとそれを外し、トランクに隠した。仕事中は外したままだ。
そして車庫に戻るとき、またつけ直していたのだ。

ある幹部がそれを察知して報告してきた。
「宇都宮社長(当時) ドライバーの皆が車庫を出たとたん宣伝板を外している
ようです! 」

それを聞いた別の幹部たちが会長に進言した。
「外せないようにマジックテープをやめてネジやボンドで固定しましょう」

宣伝板を徹底させるならば、当然の提案だ。
だが、宇都宮会長は笑ってこう言ったのである。

「それは、ダメだ。固定してしまっては意味がない。無理やり強制しては
意味がないんだ。マジックテープのままにしておこう」
さらに続けた。
「こっそり外されてもいいんだ。たとえ反対されてもこっちは変わらずに
言い続けるだけだ。何回でも何十回でも。わかってもらえるまで私は一万回でも
言い続けるつもりだ」

これが宇都宮会長の真骨頂だ。目指す会社の未来はトップダウンで示す。だが、
強制はしない。マジックテープでいつでも外せるようになっている。ボンドもネジ
止めもしない。どうするかの判断は、完全にドライバーに委ねているのである。

- 折れない自分をつくる鍵 -

私はこのエピソードを自分自身にあてはめて考えてみた。以前の私だったならば、
広告板をこっそり外す部下が現れた時点でプチ切れていたことだろう。そして、
強制的に宣伝版をネジで固定してしまったに違いない。部下はそれにイヤイヤ従って、
やる気をなくしてしまったことだろう。
しかし、私は独裁者のように見えて、相手の反応を非常に気にする気の小さい一面も
持っている。だから、強制の結果、部下がやる気をなくしたことを察知したならば、
あっさりと理念を取り下げてしまったかもしれない。
「強制」と「迎合」。私はその狭間を何度も行ったり来たり、揺れ続けてきた。
中間の着地点が見えなかったのだ。強制にしろ、迎合にしろ、私の軸は常に、相手の
中にあった。

それに比べて、宇都宮会長のなんとどっしりとしていることだろう。
会長は相手を見ていない。自分の信念だけしか見ていない。

「お客様に感動を提供したい」という経営理念の一点しか見ていないのだ。
宇都宮会長の軸はまっすぐ自分の中にある。相手軸を脱するとは、このことを言うのだ。
宇都宮会長はどっしりと揺れないリーダーだった。自分の信念だけを見て相手に
一切、左右されなかった。だからだろうか。荒くれ者のドライバーたちはやがて、
一人、また一人と、マジックテープを外さなくなっていったという。そして、中央
タクシーは、プロパーと呼ばれるドライバーが全員清潔なユニフォームに身を包み、
ネクタイを締め、お客様をドアサービスでお迎えする現在の姿に変化していった。
乗車いただいたお客様には必ず自己紹介をし、雨の日は傘のサービスをする。
それらすべてが、強制も迎合もなく培われていったという。

これこそがリーダーシップだ。
強制はしない。だが、全員に反対されても、掲げた目標はおろさない。そして、
一切、メンバーに迎合もしない。相手がわかってくれるまで一万回でも言い続ける。
その信念の強さこそが、折れない自分をつくる鍵であることが、宇都宮会長の話から
ぐいぐいと伝わってきたのだ。
私は身震いするような感動を覚えていた。

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