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6月13日配信 小倉広メルマガ vol.267 『思いどおりに動かない相手を変えようとしてはならない』



vol.267「思いどおりに動かない相手を変えようとしてはならない」
出典:折れない自分のつくり方

-正論を言っても、メンバーは動かない

リーダーが最も苦慮する問題のひとつが、メンバーとの人間関係である。
目指す方向にチームを動かし、目標を達成するためには、チームの考えを
ひとつにまとめ上げなければならない。しかし、リーダーとメンバーの考えが
いつも一致するとは限らない。いや、意見が違うほうが多いだろう。
メンバーの利益とリーダーの利益は相反するのが常だからだ。

しかし、リーダーは意見をひとつにまとめあげなければならない。
相反するものを統一しなければならないのだ。ここに人間関係の問題が起きる。
リーダーとメンバーの人間関係という、世界中の会社が抱えている永遠の課題が
起きるゆえんである。

メンバーがリーダーの言いつけを聞かない。丁寧に説明しても理解してくれない。
約束を守らない。そんなことは日常茶飯事である。かつての私は、そうした
メンバーの行動に対していつも動揺し、怒りをにじませていた。
なぜならば、当時の私は、自分なりに精一杯部下に気を遣って配慮していた
つもりだったため、自分には一切非がないと考えていたのだ。
「問題の原因はすべてメンバー、すなわち私ではなく相手にある」
当時の私はそう考えていたのである。

会社を立ち上げたばかりの頃、最初に部署を任せたリーダーの一人、
山本課長(仮名)。当時の彼は締め切り破りの常習犯だった。
毎日出すべき日報が2~3日滞るのは当たり前。
資料づくりを頼んでも、約束の時間にできたためしがない。
そのたびに私は、イライラを募らせた。

当時の私は、彼に対して無理な要求をしているつもりは毛頭なかった。
だがそのまま放置できる問題でもなかった。 私は考えた挙げ句、自分が譲歩することにした。
これまで以上に時間に余裕を持たせよう。
締め切りも山本課長に決めさせよう。
そんな思いを胸に、改めてプレゼン資料の作成を依頼したのだった。

「いつまでにできるかな?確実にできる日を言ってくれ」と尋ねる私。
「それならば3日。3日あれば絶対に間に合います」
私はにっこりと微笑んで言った。「よし、じゃあ頼んだぞ!」

相手に考えさせ、決めさせる。押しつけずにメンバーの主体性を大切にする。
仕事の与え方としては完壁である。今度こそ大丈夫。私は信じて疑わなかった。
ところが約束の3日後、やはり、資料はできてこなかったのである。

山本課長はしどろもどろになりながらこう言った。
「今からすぐに取りかかります……」
おかしい。なぜこうなってしまうのか?私の仕事の与え方に問題は
なかったはずだ。彼の業務量だってそんなに多くはない。時間的余裕も与えた。
彼の能力をもってすれば資料をつくるのも難しくない。なのに、なぜ?

私は怒りの感情も露わに、語気荒く彼を責めた。
「自分で決めた約束も守れないのか ! 」
一瞬にして心の平穏は決壊した。

このときの私の心境は次のようなものだった。
『山本課長は明らかに間違っている』
『だから、山本課長自身に行動を変えてもらわなければならない』

しかし、この考え方こそが大きな間違いだったのである。
相手の言動に一喜一憂し、相手を変えようとするから、私の心は揺れ続ける。
相手次第によって心が決まる。つまり私は「相手軸」によって支配されていたのだ。

-過去と相手を変えることはできない

私は問題点を省みた。どうすれば相手に振り回わされずにすむのだろうか。
どうすれば揺れない平穏な心でいられるのか。
山本課長にとっても、これがいい状態であるはずがない。
どうすれば変えられるのか…。

日々、そんなふうに、ダメなメンバーをどう変えるか、
ばかりを考えていた私に、
世界が変わるような気づきを与えてくれたのが、
カナダ出身の精神科医エリック・パーンの言葉だった。

「過去と相手を変えることはできない。しかし、未来と自分は変えることができる」

私は冷水を浴びせられたかのようにハッとした。そしてわかった。
問題の原因は私自身にあったのだと。

私は仕事上の約束を守らない山本課長に対して「なぜ同じ失敗を繰り返すのか?」
と「変えることのできない過去」について詰問した。そして同じく変えることの
できない相手、つまり山本課長の行動や考え方を変えようとしていたのだ。

人間は自分の子供でさえも思いどおりに変えることはできない。
そして、自分を変えることさえもできない。
ダイエットをしようと思っても、ラーメンを我慢できない。
早起きを決意しても、三日坊主で続かない。
ましてや他人であるメンバーならなおさらである。
相手を変えることは、そもそも不可能なのだ。

しかし、リーダーはそれに気づかずに、メンバーに変わることを強く求める。
目標を達成するよう要望し、主体的に積極的に動くことを求める。
だが、多くの場合、それは果たせない。
他人を変えることはそもそも不可能なのだから。
そして、私たちリーダーは落胆する。
約束を守らないメンバーに対して怒りが込み上げる。
心が揺れ続けるのである。

では、思うとおりにならないメンバーに対して、
心が揺れないためにはどうすればいいのだろうか?
簡単なことだ。期待しないこと。
つまり、メンバーを変えようとしないことだ。
それが、揺れない心をつくるための第一歩なのである。

しかし、講演などでそう話すと、必ず次のような質問をする人がいる。
「いやいや、オグラさん、そうは言え、メンバーが間違っていたら指導するのが
リーダーの役目じゃないのですか?」

もちろん、そのとおりである。
だが、気をつけてほしいのは「指導すること」と「相手を変えること」は、
似て非なる考えだということだ。
指導とは、相手がゴールにたどり着くためのヒントや助言を与えることであり、
文字どおり「導く」ことだ。
相手を変えることが目的ではない。

リーダーの助言をもとに、変わるか、変わらないか、
はメンバーが自分で決めるのだ。
それを私たちリーダーが無理やりねじ曲げることはできない。
だから、指導はするけれども、変えようとはしない。
この塩梅が重要だと私は思っている。

しかし、以前の私はそれがわからなかった。
だから、指導したとおりにメンバーが動くことを望み、指導した以上、
メンバーがそのとおりに変わることを求め、強制していた。
山本課長が自分自身の行動や考え方を変え、
私が望む結果をもたらしてくれることを期待していたのだ。
そして、それが思いどおりにならなかったために、
私は、落ち込み、怒り、イライラして心を乱していたのである。

-メンバーを変えようとしてはいけない

では、リーダーはどのようにあればいいのだろうか。
今の私ならば、次のように対処するだろう。

まず、山本課長が果たせなかった約束、つまり変えることのできない「過去」は
問いつめない。
そうではなく、考えるべきは明日のプレゼンの準備である。
今からできる最善策を検討し、
自らの徹夜も辞さない覚悟で山本課長を助けることだろう。
過去を変えることはできない。しかし、未来は変えることができるのだから。

そして私自身の山本課長に対する接し方を変えようとするだろう。
つまり、相手ではなく、自分が変わるのだ。相手を変えることはできない。
しかし、自分を変えることはできる。
メンバーに対して、強制をせず、もっと支援を行い、
一緒に成長するというスタンスで接するだろう。
メンバーのモチベーションを第一に考えたら、そうすべきだったのだ。

実際に私は行動を変えた。
まずは仕事の依頼の仕方である。
かつての私は一見、丁寧に資料作りを頼んだようでいて、
その実、山本課長にすべてをまる投げしていた。
参考になるような過去の資料を用意しておき、依頼時に渡すことだってできたはずである。
期限だけ決めて、あとは関与しなかった点も、
リーダーの仕事をサボっていたと言わざるを得ない。
たとえば目次立てを二人で一緒にやり、
流れを組み立てるところまでは補佐することもできたはずだ。
締め切りもフォローすべきだった。

元々山本課長は締め切りを守れない傾向にあったのだ。
前日まで放置せず、途中で進行を確認しておけば、こうはならなかっただろう。
下書きの段階でチェックを入れていれば、
適切なアドバイスを行うことができたかもしれない…。

私は問題の原因を、山本課長の中ではなく私自身の中に探った。
つまり「相手軸」に求めることをやめたのである。
私は、私自身の非に気づいた。
変わるべきは自分であることに気づいたのだった。

それ以来私は、メンバーとの接し方を変えるように努力を始めた。
すると、山本課長と私の関係は少しずつ変化していった。

以前の私たちは
『資料づくりを命じるリーダーと、資料を言われたとおりにつくるメンバー』
でしかなかった。
しかし現在では『仕事を通じて成長を支援するリーダーと、
仕事をすることで成長できるメンバー』という関係性に変化してきた。

大切なのはメンバーに強制せず、相手を変えようとしないこと。
リーダーはあくまでも自分のやるべきことをやり、
果たすべき役割に集中することだ。
それを受け入れるか否かはメンバーが決める。
我々リーダーにできることは、彼らが、自ら変わりたい、
と思うきっかけを与えることであり、その後に支援することでしかない。

「強制するな」「相手を変えるな」
折れない自分をつくるために、私は大きな気づきとともに折れないリーダーへの
第一歩を踏み出していた。

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