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11月14日配信 一偶を照らす vol.1『「良き習慣」を残す』



「子どもたちに歯ブラシを送ってもらえませんか?」

橋本博司さんが立てた二校目の小学校、カンボジア「スレイクワウ村みんなの学校」の校長先生が、橋本さんに頼んだ。

海外からキャンディやチョコレートは入って来るが、この村には歯磨きという習慣がない。
村には歯ブラシが一本もないのだ。もちろん歯医者もいない。

「わかりました。」橋本さんは答え、多くの人の協力を得て、300本の歯ブラシを携えて村へ向かった。三ヶ月近く前のことである。

その後、今月初旬、私は橋本さんと共にカンボジアへ向かった。子どもたちに歯磨きの習慣が根付いているかを確かめるためだ。

「たった一度歯ブラシを配っただけでは根付かないですからね。それに、子どもたちが、以前配った歯ブラシをまだ持っているかどうかもわかりませんしね」。
そう言って橋本さんは笑った。

スレイクワウ村へ向かう未舗装の道は大きな穴が空いたでこぼこだらけ。おまけに毎夕降るスコールのお陰で深い水たまりが随所にある。「車ではムリです。1台のバイクに三人乗りで行きましょう!」橋本さんはバイクを手配してくれ、私たち一行は四台のバイクに三人乗りで分乗。一時間近くかけて村へ向かった。途中、大きなトラックがでこぼこ道をひっくり返りそうになりながら走っているのを見かけた。橋本さんは「ムリですよ。途中に丸太の橋もあるし。どうやっていくつもりなのかな?」と首を傾けた。

私たちが乗ったバイクは赤土でできた真っ赤な水たまりを避け、くねくねと蛇行しながら1時間近く走り続けた。小さなバイクの後部シートで振り落とされないよう必死につかまっている私のリュックサックには、ぎっしりと歯ブラシが入っていた。たくさんの仲間たちから預かった大切な大切な歯ブラシだ。

今回の訪問で、橋本さんが「歯磨き習慣」が根付いているか、どうかを調査しに行く、と聞いたとき、私はすぐに思った。「よし!おみやげに歯ブラシを持って行こう!」と。スレイクワウ村以外に橋本さんが立てた学校が2校ある。そこで待つ子どもたちにも歯ブラシを届けたい。さらには、スレイクワウ村の子どもたちに二本目の歯ブラシをプレゼントしたい。せっかくカンボジアを訪れるのだから、少しでも子どもたちの役に立ちたい。
そう思ったのだ。

私が一人で集められる本数はたかが知れている。しかし、私にはたくさんの仲間たちがいる。そして、私の書くコラムを読んでくれる数万人の皆さんがいる。私はそう思い、すぐに行動を起こすことにした。

早速、私は「歯ブラシ求む!」という趣旨のコラムを書いた。
ブログへ→http://ameblo.jp/hiroshiogurajp/entry-11384120337.html

すると、あっという間に私の手元には500本を越える善意の結晶、歯ブラシが集まった。私はそれを背負い、スレイクワウ村へと向かったのだ。

学校へ到着すると、すぐに子どもたちが授業を抜け出して一斉に私たちのもとへ駆け出して来た。彼らからすれば私たちの訪問は一大イベント。先生も校長先生も皆、私たちを出迎えてくれる。

真っ黒に日焼けした私たちの腰ほどしか背丈がないちびっ子たち。彼ら彼女らは、顔なじみの橋本さんに抱きつくと背中をよじ登り始めた。一人、二人、三人……。橋本さんは笑いながら彼らを抱きかかえる。子どもたちの笑顔は山の岩肌からわき出る水のように清らかで美しい。

遠巻きに遠慮しながらほほえみかけている子どもたちに向かって、私も手を差しのべてみる。すると、一人の女の子が私に抱きついてきた。抱っこして!というのである。私は喜んで彼女を抱き上げる。すると。それが合図になったかのように、よそ者のはずの私に対しても、一斉に子どもたちが群がり始めた。

男の子が全力でぶつかってくる。背中を二人の子どもがよじ登っている。私はたちどころに子どもたちに囲まれ、嬉しさにだらしのない笑顔で子どもたちを抱きしめ続けた。

歓迎の挨拶が終わり、私たちは歯磨きの確認をすることにした。現地スタッフのリーダーであるサムが話す。

「皆さん、歯磨きのこと、覚えていますか?」
「はーい!!」

小学校1年生のクラスの40人ほどがかわいらしい声で答える。

「まだ、歯ブラシを無くさずに持っていますか? 持っている人手を挙げて!」
「はーい!」

元気に手を挙げる子は、しかし、半分に満たない。サムが尋ねる。

「手を挙げない子はどうしたの?」
「なくしました!」
「わかりません!」口々に答える。

まぁ、そんなもんだろう。サムが苦笑いすると、橋本さんはポジティブに手を叩きながら「OK!OK!」と答えた。そして、橋本さんが私に向かって目配せをした。
「小倉さん、歯ブラシ配りましょうよ」うん。私は橋本さんと手分けをして、子どもたちに二回目の歯ブラシを配ることにした。

「まだ持っている子は、1本はおうちに。もう1本は学校に置いておいてね。ご飯の後、歯を磨くんだよ!」
サムがカンボジア語で話す度にみんな「はーい!」と答える。なんて素直でかわいい子どもたちなんだ。


私は、たくさんの仲間たちから託された、全国から送ってもらった、大切な歯ブラシを1本ずつ子どもたちに手渡した。

その後、私たちは子どもたちとの別れを惜しみながら、学校を後にした。そして、前回のコラムでお伝えした、貧困世帯に養豚事業を根付かせるための面談へと向かった。
前回のブログ→http://ameblo.jp/hiroshiogurajp/entry-11394530084.html

私たちの後を追う無邪気な子どもたちの笑顔と、果てしなく続く田園風景と、赤土のでこぼこな一本道を眺めながら私は思った。

橋本さんがしていることって何だろう?と。

とても尊く、大きく、未来へ続くこの行い。「志」なくしては決してできない、この行い。

そして、私は気づいた。橋本さんがしていることは「良き習慣を残している」ことだ、と。

健康のために歯磨きをする「良き習慣」
貧困から抜け出すために養豚をするという「良き習慣」
子どもたちの未来に可能性を与えるために、学校へ通わせるという「良き習慣」

つまり、橋本さんが行っているのは「良き習慣」を根付かせ、彼らに「自立」し「自律」していく力を与えている、ということではないか。私はそう、気づいたのだ。

その行いはリーダーシップそのものだ。リーダーシップとは、上司が自分の意のままに部下を動かすことではない。部下が自らの意思で、自らの力で、自立・自律的に生き抜いていく力を与えること。
いや、彼らが自ら力を獲得することを陰から支援すること、だ。それこそ、まさに橋本さんがカンボジアで行っていること、そのものではないか。

両手を合わせ、何度も、何度も頭を下げる小学校の校長先生。
一点の曇りもない、こぼれるような笑顔で私や橋本さんにまとわりついてくる子どもたち。
スレイクワウ村の田園風景を見ながら、私は何とも言えない爽やかな気持ちを感じていた。
そして、その瞬間にハッと気づいた。

そうか。もう一つあったじゃないか。橋本さんは、カンボジアの子どもたち相手だけではなく、私たちに対しても「良き習慣」を残してくれているのだ。

それは「してもらう幸せ」「自分でできる幸せ」ではなく「させていただく幸せ」を行う、という新しい習慣だ。

歯ブラシを集めて郵送代を自腹で負担しながら郵送する。
わずかなお小遣いの中から、子どもたちのために募金をする。
そして「させていただく幸せ」を実感し、それを新たな習慣とする。利他の心で生きることを習慣とする。
そのきっかけを橋本さんは与えてくれたのだ。

赤土のでこぼこな一本道。ぼんやりと地平線が見える。私にはその先に何かが見えたような気がした。
リーダーのあるべき姿。私たちが目指すべき姿。

私たちは両手を合わせ、村の子どもたちに向かって頭を下げ、手を振りながら、バイクにまたがった。
泥だらけの赤土の一本道の上には、スコールの後の爽やかな風が吹いていた。

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