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11月13日配信 小倉広メルマガ vol.226 『 ムダに競う夫婦』



vol.226「ムダに競う夫婦」

うまい魚を食わせてくれる小さな居酒屋がある。
数名が座るカウンターとテーブル1つ。
夫婦二人でうん十年のれんを守ってきたのだという。

「毎朝、二人で海沿いを散歩しているんですがね……」おやじさんが
話し始めると、おかみさんが間髪入れずに訂正した。

「二人じゃないよ。別々だよ」おやじさんは首をひねって
「家を出るのは、別々だけど、だいたい同じ時間に出るじゃないか」

するとすかさず

「だから、別々だって言ってるでしょうが」
「別々といえば、別々だけど一緒っちゃあ一緒だろう」
「別々なの!はい、終わり!」おかみさんの一言で強制終了。

カウンターで酒を飲んでいた私はおかしくっておちょこをひっくり返しそうに
なってしまった。しかし、目の前の夫婦は二人ともイライラしている。
この夫婦、常に競っているんだろうな。「あたしが正しい。あんたは間違ってる」
こんな会話ばかりしているのだろう。

鎌倉野菜がおいしいイタリアンレストランでワインを飲んでいた時のことだ。
隣の夫婦がメニューを決めている。やさしく気が弱そうな旦那さんと
キレイで気が強そうな奥さん。案の定。

「このカルパッチョとか、いいんじゃないか?」旦那さんが言うと
「いいの。今日はエスカベッシュを食べるんだからいらないの」
にべもなく却下する奥さん。

「パスタはボンゴレとかさっぱりしたのがいいなぁ」と旦那さん。
「ここはペスカトーレが有名なんだから、ペスカトーレに
決まってるでしょ」
「別に名物を食べなくたっていいじゃないか」
「お店のオススメを食べないなんて信じられない。ありえないでしょ」
こちらも奥さんの一言で強制終了。その後、奥さんの希望通りのメニューで
食事が決まったのは言うまでもない。

私が正しい。あなたが間違っている。
私の考えが優れている。あなたの考えは劣っている。
私の勝ち。あなたの負け。
私が上。あなたが下。

アドラー心理学ではこのような関係を「縦の関係」と呼ぶ。そして、
縦の関係でいる限り、対人関係はうまくいかない、と考える。
そうではなく、対等な「横の関係」を目指すのだ。正誤、優劣、勝ち負け、
上下、なんて、どうでもいいじゃないか。対等な横の関係でいこうじゃないか。
ちっぽけで無意味な「勝利」を求めるよりも、二人が仲良く、いい関係でいる方が
よっぽど大切じゃないか。アドラー先生はそう言っているような気がする。

ある時、バツのついている友人が、同じくバツのある私にこっそりと、
こう耳打ちしてくれた。
「競わないかみさんっていいぞ。今のかみさんとはケンカになりようがない。
のんびり、のほほん。柳に風。のれんに腕押しだ」と。
「以前のかみさんは、仕事でも家庭でも、オレのことをライバル視していたからな。
そうされると余計にオレも負けるもんか、となる。お互い、それ以外の方法を
知らなかったんだよなぁ……今は、オレも競う必要がないんだって気づいたよ。
本当にラクだよなぁ」。

友人は自然な笑顔でそう言って、赤ワインをごぶりと大きく飲み込んだ。
テラスの風は気持ちよくて、秋の虫の声が聞こえていた。へへへっ。照れ隠しだろうか。
少し遅れて、友人がもう一度、声を出して笑った。

【 編集後記 】

久しぶりに車に乗ったら、いつの間にか自動で暖房がかかり驚きました。
ふと気温計を見ると12度と表示されています。気がつけば、秋の虫の声も
ずいぶんと少なくなりました。窓の外に見える山の木々も一部は真っ赤に
染まっています。

街はどこもクリスマス一色です。そして、それが終わると今度はお正月。
そんな風にしてまた一年が過ぎるのでしょう。また一つ歳をとる。
年齢相応の成熟した大人になりたい、と思います。

しかし、なんだか最近は子供に戻っているような気もします。
子供に帰って、土に還る、のでしょう。私は100歳まで生きるつもりなので、
まだまだ半分。もっともっと子供に帰るぞ、と思っております。

では、次回もお楽しみに!

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