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10月1日配信『笑って笑って〜』



「はい、皆さん。では、カメラのファインダーをのぞかずに、シャッターを押してみましょう!」

セミナー講師でカメラマンの青山裕企さんがいう。「え~?」とまどう受講生たち。青山さんがいう。

「人を撮るときに一番大切なのは何ですか?
そう、表情ですよね。活き活きとした表情の写真は素敵です」手に手にカメラやスマホを持った受講生はうん、うん、とうなずきながら聞いている。

「では、皆さんがファインダーをのぞいて、はい、撮りますよーと、言ったら、被写体の人の表情はどうなりますか?
はい、あなた」青山さんが受講生の女性を指した。すると、

「緊張すると思います」とあてられた女性が答えた。

「そう、その通り。緊張しますね。つまり、ファインダーをのぞいて、はい、撮りますよ~、と言ったら、活き活きとした表情は撮れないんです」。

皆は、さらに、うんうん、とうなづいている。川上さんは続ける。

「だから、ファインダーを覗かずに撮るんです。もちろん、細かい構図はとれませんよ。でも、そんなに大きくはずれない。慣れればさらに大丈夫」。受講生たちはドッと笑った。

「そう。細かな構図よりも、活き活きとした表情が大事なんです。だったら、ファインダーを覗かずに、カメラを頭の上にあげたり、胸の位置に固定したり、手を伸ばして、遠くにカメラを置いて撮ったり。そうすればいいんです。私もそうしています」

「あぁ~、なるほど……」。多くの受講生と共に、私も大きくうなずいた。

出版社が主催する読者向けセミナー。青山さんと私は共に講師として会場に呼ばれていた。私は青山さんの次に話す。それを待つ間、受講生と共に「武器としての写真術」について学んだのだ。

受講生にとっても、私にとっても、川上さんの話はまさに目からウロコ。しかし、言われてみれば「確かに」とうなずけることだらけであったのだ。中でも、次の話は白眉であった。それは。

「皆さん、写真を撮るときに必ずこう言いませんか?『はい、笑って、笑って~!』」

またもや受講生は大きくうなずく。中の数人は大きな声で「言いまーす!」と相づちをうっている。私も思わず、小さな同じ言葉をつぶやいていた「言いまーす……」。川上さんは続ける。

「では、質問です。『はい、笑ってー!』そう言ったとき、被写体の人は笑いますか? それとも緊張しますか?」

またもやみんなが一斉に答える。「緊張しまーす!」

「はい。そうですね。言われた方は笑わずに、逆に緊張するんですね。『笑って!』と言われて、その通り笑える人はいないんです。逆に緊張するんですね」。

「だから、カメラマンはそんなことを言ってはいけません。『笑って!』と命令するのではなくて、被写体が思わず『笑ってしまうような行為』をするんですね。ギャグを言うとか、世間話をするとか。『結果的に』『笑ってしまうような行為』をすればいいんです。それをせずに『笑って-!』というのはプロの仕事ではありません」

この瞬間に、私はまさに膝を打った。そう!まさにその通りだ。笑わせるときに「笑って!」というのは、あたかも、人を笑わせるプロの芸人が観客席に向かって「はい、笑って!」と言っているようなものだ、と、そう思ったのだ。

そして、こう思った。これと同じことを我々リーダーは部下に言ってはいまいか、と。

「元気出せよ!」
「がんばれよ!」
「もっといいアイディアを出せよ!」
「こんなことくらい、言われなくても気がつけよ!」

これらの言葉は、カメラマンが被写体に向かっていう「はい、笑って~!」と同じくらい、間抜けな言葉ではないか、と気づいたのだ。

我々がすべきは、そうではない。部下の元気が出るような。部下が思わず頑張ってしまうような。部下が思わずいいアイディアを出すような。部下が言われなくても気づくような。そんな指導や環境作りをする。それが私たちリーダーの使命だ。

それをせずに、部下にそれを求めるのは、間抜けなカメラマン。「はい、笑ってー!」と言っているカメラマンと変わらないではないか。そう気づいたのだ。

「あちゃー。やっているなぁ、俺……」。私は、顔が赤らむ思いがした。

演台では、先ほど変わらずに、青山さんが「写真の撮り方」について話し続けている。しかし、私の頭の中は、我が身、我が行動を振り返るのに精一杯であった。

「写真の撮り方」を学ぶつもりで、リラックスしていたら、背筋が伸びてしまった。油断大敵だ。あらゆる機会に学びはある。学びに気づくか、気づかないかは、自分次第だ。油断している場合ではない。そう思った。

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