作家、講演家、心理カウンセラー

小倉広オフィシャルWebサイト

小倉広事務所 HOME

1月12日配信 小倉広メルマガ vol.235『課題解決はメンバーにやらせろ』



vol.235「課題解決はメンバーにやらせろ」
出典:任せる技術

-僕は「任されて」育った

僕は29歳の時、人事異動により内勤の事業企画からコンサルタントへと
職種が変わった。新しい部署での出勤初日。新しい上司は僕の顔を見るや否や
いきなりこう切り出した。

「小倉、よく来た、待ってたぞ。ちょうど今から契約したばかりのクライアント
と最初の打ち合わせがある。一緒に行こう」

僕は元気よく、はい!と返事をした。そしてこう思った。「ラッキー!」と。
着任早々、いきなり憧れの仕事であったコンサルティング現場を生で目に
することができるのだ。これほどの幸運はない。しかし、その喜びも束の間、
僕はいきなり断崖から突き落とされることとなったのだ。

タクシーで向かう10分ちょっとの道すがら、上司は車の中で突然こう言った。
「これから行く訪問先の会社はなっ。おまえが担当することになっているんだ。
提案書の担当コンサルタント欄には小倉、って書いてある。
仕事内容は成果型人事制度の設計。期間は6カ月間。先方社長には、小倉はベテラン
コンサルタントで人事制度に非常に詳しい、と伝えてある。後はうまくやってくれ」

え……。あまりに突然のできごとに僕は言葉を失った。なぜならば、コンサルティング
という仕事がどのようなものなのか、その時の僕はまったく知らなかったからだ。
それだけではない。成果型人事制度がどういうもので、どのようにして設計するのかも
わからなかった。言うまでもないが僕はベテランコンサルタントなどではない。

車が現地に着き、上司が料金を支払っている聞に、僕は完全にパニックに陥った。
ピルに入る。受付に寄り社長室へ向かう。その間、僕は覚悟を決めた。えぇい。
なんとかなる。とにかく嘘をついてでもやるしかない。開き直ったのだ。

その6カ月後、僕は見事に嘘をつき通した。ド素人の初めてのコンサルティングである
ことを先方に微塵も感じさせず、ベテランとして振る舞い、プロジェクトを完遂した
のである。その時僕は思った。やればできるじゃん。オレって結構すごいかもしれない、と。

-僕は「任せて」育てた

そんな経験を通じて育ったからだろうか。僕は社長となった今も「人は仕事を任されて
育つ」と信じて疑わない。育てられる側から育てる側へ。立場が変わった今、僕は
「任せる」ことで部下を育てている。そんな我が社で最も劇的に成長した例を一つ、
皆さんにご紹介しよう。

コンサルタントを率いる総責任者の森下(仮名)はわずか29歳にして
子会社の社長に抜擢された。そんな彼もつい2年くらい前までは凡庸な若手コンサル
タントの一人でしかなかった。しかし、ある日を境に彼は劇的に生まれ変わった。
そのある日とは、僕が彼を千尋の谷底へと突き落とした、冬の日のことだ。

「今日から僕はクライアントのA社さんへは行かないことにする。森下さん、一人で行って
くれ」。えっ……。その時の森下の凍りついた表情は今も忘れられない。絶句したまま
彼の頬を一筋の汗が流れた。僕はまだまだ一人前に満たない彼を突き放し、一人で
クライアントのもとへ行かせることにしたのだ。

しかも、そのクライアント先でのプロジェクトは問題山積みだった。組織変革を焦る
若き二代目社長。しかしプロジェクト・メンバーに抜擢された営業部長や所長たちは
改革に背を向け白けていた。「こんなプロジェクトやるだけムダだよ……」。
裏に表に彼らは「やってられない……」という態度をアピールした。当然ながら
コンサルタントに対しても反抗的だ。「コンサルがなんぼのもんじゃい。高い金を
取りやがって。そんな金があったら稼いでいる俺たちの給与を上げてほしいもんだよ 」。
そんな声が聞こえてきたのだ。森下は焦った。どうやってこの難局を打開すべきか、と。

僕は言った。「森下さんの本気度が試されているね」
技術的にアドバイスすることはいくらでもできる。しかし、それが相手の心に届くか否
かはコンサルタントの本気度で決まる。ではそのコンサルタントとは誰なのか?
担当の若き森下か?それともベテランの総責任者たる社長の僕か?

「コンサルティングの本質とは会社対会社の付き合いではない。個人対個人の信頼関係
で進めるものなんだ。団体戦じゃない」。それが僕の持論だ。さぁ、森下さん、どうする。

その時、森下は覚悟を決めた。そして、半泣きになりながらプロジェクト・メンバー
たちへ向かって言った。

「僕はあなたたちを見ていると腹が立つ。社長の気持ちがわからないのか?部下たちの
叫びが聞こえないのか?僕はあなたたちと共にこの会社を良くしたい!」
勝負あった。彼の本気度がメンバーの心を打ったのだ。そこからだ。彼が劇的に成長を
始めたのは。上司の僕がしたことは一つ。突き放すことだけだったのだ。

Top