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2012年8月3日配信コラム 『人を見ずに、天だけを見る』



◆ 人を見ずに、天だけを見る ◆



『僕はこうして苦しい働き方から抜け出した』(WAVE出版)出版記念イベ
ント、「公開悩み質問会」が昨晩、開催された。
http://j.mp/LEdn5c

「働く悩み」を持つ男女50名が弊社セミナールームに集結。私と対話をし
ながら、その場で悩みに対する考え方を共有した。

相談をする当事者以外も、やりとり聞きながら、自らの体験に照らして学
びを深めた。あっという間の90分であった。

事前に寄せられた悩みは参加者の半数にあたる25個。以下のようなものだ。

●仕事と家庭の両立が難しい。転職をした方がいいか? このまま頑張る
 べきなのか?

●今に集中すべき、とはわかっているが、未来のことを考えて不安になる
 ときがある。どうすれば集中できるのか?

●奥さんを大切にする、と決めているのに、ついイライラして反論してし
 まう時がある。どうすれば継続できるのか?

●お客様のことを考えず、ラクばかりしたがる社員が多い。お客様目線で
 仕事をするよう求めると会社を辞めてしまう。

などなど。

そして、案の定、最も数が多かったのが、上司に対する悩みであった。
様々なタイプのダメ上司。彼らに対して自分はどう接していったらいい
のか?それがわからない、という切実なものだ。事前アンケートに記入
された上司象とは、以下のようなものであった。

●部下の気持ちを一切考えず、問題を指摘し、憶測や思い込みで部下を
 責め立てる

●高圧的で、自分の考えを押しつけてくる

●「あなたは、普通の人の半分も仕事をしていない」と否定する。毎日夜
 遅くまで残業しているのに。

●私のことを嫌っており、ことあるごとに公衆の面前で私を個人攻撃する

●超ワンマンであり、自分が反対していた案件の担当であった私を見せし
 めのために解雇しようとする

などなど。確かに、辛く苦しい状況をうかがわせる、切実な悩みであった。

私は、それらの様々なタイプの上司へ対する接し方として、一つだけ、西
郷隆盛さんの言葉をお借りして、助言をさせていただいた。

「これは、きれい事かもしれません。単なる理想論なのかもしれません。
 でも、真理だと思います。それは……」

「目の前の人を相手にせず、天を相手にする、ということです」

「人を見ないで、天だけを見る。つまり、上司の理不尽なふるまいに気を
 取られずに、『正しい道』だけを見て進む、ということです。それより
 他に、苦しみから逃れる方法はないように、私には思えます」

そう伝えた。

京セラを創業した稲盛氏をはじめとして、数多くの名経営者がこぞって
「最も尊敬する人物」に名をあげる西郷隆盛。勝海舟との交渉による江戸
の無血開城実現、一向に進まなかった廃藩置県の断行など、歴史に名を残
す輝かしい功績を持つ西郷さんだが、その生涯は波瀾万丈、運命に翻弄さ
れ苦難に満ちたものであった。

主君であった島津斉彬の急死や、後継者久光との折り合いの悪さから、奄
美大島、沖永良部島と、二度の島流しに遭う。しかも、後者においては、
屋根も壁もなく、しらみや蚊に体中を刺されながら、炎天下さらしものに
されるという、非人道的な扱いであった。

また、尊王攘夷派の高僧・月照をかくまうため共に逃げる途中で、月照の
殺害を命じられ煩悶。仕方なく月照と共に入水自殺を図り、奇跡的に生還
したこともある。さらには、明治政府参議として活躍中に、反対派との抗
争に敗れ解任、など、激動の幕末・維新に翻弄されながらも、強い意志を
貫き続けたことで有名な偉人だ。

そんな西郷さんが愛した言葉が「敬天愛人」。天を敬い、人を愛する、と
いう言葉だ。

天とは、人としての正しい道。それだけを見る。先の上司との苦しみの例
で言えば、上司を見ない。天だけを見る、ということだ。

実際に、西郷さんは、かつての主君であった島津久光や明治政府幹部たち
から、極めて理不尽な報いを何度も受けた。しかし、それに対して一切恨
み言を言わず、黙々と自分が正しいと思うことをやり続けた。その懐の大
きさ、深さに、多くの人が胸を打たれ、西郷さんを尊敬してやまなかった
のである。私は続けた。

「西郷さんと比べるのは無理があるかもしれません。しかし、その教えは
 真理であるように思う」

「お願いしたいのは、ダメな上司と戦わないでいただきたい、ということ
 です。上司の理不尽なところや、おかしなところをあげつらい、ダメ上
 司を成敗しよう、叩きつぶそうと戦わないでいただきたい、と思うので
 す。そんなことをしても、何一ついいことはありません」

「ただし、ひたすら耐えてガマンしろ、と言っているのではありません。
 おかしい、と思えば、おかしい、と発言してほしい。理不尽だと思えば、
 理不尽だと伝えるのはかまいません。しかし、それが通らなかったとき
 に、ごり押ししたり、戦ったりしないでいただきたい。『正しい道』に
 沿って、自分がすべきことを淡々としていただきたい。目の前の人を見
 ずに、天だけを見る。それが、苦しまずに働き続ける道ではないか、と
 私は思います」

この考え方は、上司だけに対するものではないだろう。理不尽な取引先、
理不尽な部下、理不尽な家族、友人……。それをねじ伏せようとせず。天
だけを見る。そして、自分が正しいと思う道を淡々と進む。それが苦しみ
から逃れる方法ではないか。私はそう思っている。

昨晩の参加者の方々が私の話をどう思ったか、はわからない。ただ、深く
うなづき、熱い視線で私の目をじっと見つめてくれた方が多かったのは間
違いない。少なくても眠そうにしている人は一人もいなかった。私自身が
大いに考えさせられ、多くの気づきをいただいた悩み相談会。これからも、
随時開催していきたいと思った。

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